窓の外にはのどかな田園風景が広がっている。
鳥の声が響き、涼やかな風が吹き込んでくる。
こんな風景を眺めながら食べるうどんは、幸せだなあ。
釜玉うどんが運ばれて来た。
うどんを混ぜようとして箸で持ち上げると、うどんが伸びた。
ビヨヨーン。
弾力がある。「さあ食べて」と、うどんが自信満々に語りかける。
卵をからめ、からめ、よくよく混ぜるとさらに艶が出て輝き、喉がゴクリとなった。再び箸でうどんを掴み持ち上げると、また伸びる。
ビヨヨーン。
この伸びがいい。
うどんがコシを誇っている。
食べれば、もっちり、もちもちと歯を弾ませる。
実に痛快である。
噛むほどに小麦のほのかな甘さがにじみ出て、卵の甘みと混ざり合っていく。
うどんに根性があり、20回ほど噛んで、ようやく喉元に落ちる。
しかし讃岐うどんのコシとは違う。
あちらはもっとたくましく、楽観を緩さぬ頑迷さがあるが、こちらのうどんは、コシの芯に「出会えてよかったね」と言われているような、優しさがある。
次に冷たい、とり天ざるうどんが運ばれた。
ビヨヨーン。
これまた伸びる。
熱々のとり天をかじり、冷たいうどんを噛む。
その対比が楽しい。
冷たいうどんは、さらに奥歯で噛み締めさせ、喉に落ちた後に、ほのかに甘い、小麦粉の風が吹き抜ける。
ああ。いいうどんだなあ。
こうして250gはあるうどんは、瞬く間になくなっていく。
この土佐市出身の店主伊藤勝也さんは、東京でバンドをやっていたという。
担当はドラムだった。
高知に帰り、うどん屋を始めようと思い立ったが、料理経験はなく、ネギも切ることができなかったという。
やがて「国虎」で修行して、香川も食べ歩き、2016年5月にこの店を始められた。
店名は、祖父繁二さんからとった。
うどんの素晴らしさを褒めると、「ありがとうございます」と、恥ずかしそうに照れ笑いをされながら、言った
「毎日毎日反省しています。喉越し、粘り、伸び、香り、甘み。まだまだ理想には近づいていません」
日々の仕事を点検しながら、現状に決して満足せず、理想を目指す。
いい料理人、優れた職人に共通する資質、姿勢である。
「うどんは音楽と似ていますか。ドラムとはどうでうですか?」と尋ねると
「表打ちだけではなく、リズムの頭を裏打ちもしてやるといい時もあります」と笑われた。
鶏肉が好きだという伊藤さんの想いが通じたのか、一番人気が「とり天ざる」で、
通常メニューの他には、トムヤムクンうどんなどをやる時もあるという。
「伊藤さんにとってうどんは、なんですか?」と、聞いてみた。
「うどんは、自分のモチベーションを上げるものです」。
即座に答えた目が輝いている。
こうして伊藤さんは、高知で、生まれ育った愛する土佐町で、今日もドラムの代わりにうどんを打つ。